金沢市「養サポ」事業 立案担当者のつぶやき⑯【具体的な支援(助成)(4)弁護士費用その3―「10万円上限」がもたらした制度設計上の妙と、報酬金助成の構造的限界―】

養サポで着手金助成の上限を10万円と設定したことは、一見すると単なる金額設定にすぎない。しかし、この「10万円」という設定が、思いがけず制度運用を大きく簡素化する効果をもたらしている。
他方で、報酬金助成については、国の補助基準に起因する構造的な難しさが顕在化している。
今回は、この対照的な二つの側面について紹介する。
1 着手金上限10万円がもたらした思わぬメリット
(1)法テラスの「同額設定」がもたらす逆転現象
前回述べたとおり、法テラスにおける養育費事件および離婚事件の着手金は、調停事件であればいずれも税込11万円とされている。
もっとも、離婚事件は、養育費のみならず、離婚の可否、親権・監護者指定、親子交流、財産分与、年金分割、慰謝料等、多岐にわたる事項を含む複合的な紛争である。本来であれば、養育費単独事件と同額であることには違和感がある。
しかし、この「同額である」という点が、養サポの助成実務においては逆に有効に機能する。
(2)按分不要というシンプルなロジック
本来、離婚事件における着手金のうち、養育費に関する部分がいくらかを切り分ける必要がある。
しかし、法テラスにおいて養育費事件も離婚事件も同額である以上、「養育費事件と同水準の金額を助成する」というロジックにより、離婚事件であっても養育費部分の厳密な按分を行うことなく、助成を正当化することが可能となる。
(3)機械的運用の確立と私選事件への波及
この結果、法テラスを利用した養育費事件・離婚事件のいずれについても、機械的に上限10万円まで助成して差し支えないという、極めてシンプルな運用が可能となった。
さらに、この整理は私選事件にも波及する。一般に、私選事件の弁護士費用は法テラス事件よりも高額となる。この前提に立てば、私選事件であっても、養育費単独事件か離婚事件かを問わず、上限10万円まで助成するという運用で整合性が保たれる。
(4)もし上限が高額であったなら
仮に助成上限額を30万円などと設定していた場合、このような整理は成立しない。
法テラス事件との比較による正当化ができなくなるため、助成の可否や金額について個別審査を厳格化せざるを得なくなる。
その場合、特に離婚事件において、「着手金のうち養育費部分はいくらか」という、実務上ほぼ不可能な切り分け作業を自治体が担うこととなる。
このような事態を回避できている点において、上限10万円という設定は、制度設計上の妙であったと評価できる。
2 報酬金助成における構造的な困難
(1)国基準「1年分」という制約
これに対し、報酬金助成においては、同様の整理は通用しない。むしろ、制度上の困難が顕在化している。
自治体が弁護士報酬助成を行う場合、国からの補助対象となる基準は、「養育費の受取り開始後1年間分」に対応する報酬金とされている((こども家庭庁「離婚前後親支援事業(現:離婚前後家庭支援事業)実施要綱」4(1)③ク))。
この基準は一見明確であるが、実務に適用しようとすると、多くの問題を生じさせる。
(2)婚姻費用という「切り分け不能問題」
第1に、婚姻費用の問題である。
離婚前の別居中に支払われる婚姻費用には、子の養育費のみならず、配偶者自身の生活費も含まれる。このような費用に関する報酬金について、養育費部分のみを切り出すことは困難であり、当市では、対象外とせざるを得なかった。
(3)対象者・受取り開始時期の揺らぎ
第2に、助成対象者の問題である。養育費を支払う側(別居親)についても、子の養育に資するという観点から、助成対象から排除する理由は乏しく、当市では、対象に含めることとしている。
第3に、「受取り開始」時期の特定である。増額請求事件等では暫定的な支払いが行われることもあり、どの時点を基準とするかが問題となる。当市では、最終的に確定した養育費を初めて受領した時点と解している。
(4)離婚事件における報酬金に馴染まない
さらに深刻なのは、離婚事件における報酬金の性質である。
離婚事件の報酬金は、複数の成果に対する対価として一括で定められることも多く、「養育費○年分の受取りに対応する報酬」という形で内訳化されないケースの方がむしろ多い。
このため、助成のためには、何とかして内訳を作成する必要が生じ、代理人弁護士への個別照会を通じて、実質的には「創作」に近い形で金額を割り出しているのが実情である。
(5)結果の不均衡
また、未払養育費の一括回収や民事執行による回収の場面でも問題が生じる。
例えば、過去5年分の養育費を一括で受領した場合、それは「受取り開始後1年間」に含まれるから全額が助成対象となる。他方、回収時期が1年を超えた場合には超過部分は対象外とせざるを得ず、結果として不均衡が生じる。
このように、報酬金助成は、国の基準に依拠することにより、極めて見通しの悪い制度となっている。
3 利用者への説明の限界と今後の課題
以上のとおり、着手金助成が比較的シンプルかつ安定的に運用されているのに対し、報酬金助成は複雑かつ不透明な制度となっている。
その結果、利用者に対しては、「着手金については概ね10万円の助成が見込まれるが、報酬金についてはいくら助成されるかは事前には確定できない。場合によっては1円も助成されない可能性もある」と説明せざるを得ない。
実際のところ、利用者は制度の計算過程を十分に理解しないまま、最終的な助成額のみを受け入れているのが現状である。また、代理人弁護士にとっても、制度の全体像を正確に把握することは容易ではない。
このような状況に鑑みれば、国の報酬金助成に関する基準については、より実務に即した形への見直しが強く求められるところである。
