自治体による離婚前後支援の現在地(3)「養育費保証契約の保証料助成」―「取組事例集」を読んで見えてくるもの―なぜ合理的な制度は使われないのか/点の助成から線の支援へ

2026年05月26日

前回まで、自治体による離婚前後支援の「取組事例集」を素材に、強制執行実費助成をめぐる課題を論じた。今回は、同じく金銭的支援メニューの一つである「養育費保証契約の保証料助成」を取り上げる。

養育費保証契約の保証料助成は、一見すると非常に合理的な制度に見える。保証料を自治体が負担し、不払いリスクを減らせるなら、利用されない理由はなさそうだ。ところが現実には、多くの自治体で利用件数は年間0〜数件にとどまる。制度はあるのに、誰も使わない。なぜそんなことが起きるのか。その理由を掘り下げ、そこから見えてくる一気通貫型サービスの可能性について私見を述べたい。


1 養育費保証とは何か

養育費保証とは、取り決めた養育費が支払われなかった場合に、民間の保証会社が養育費相当額を立て替えて支払ってくれるサービスである。

着想の元になったのは、大家が賃借人の家賃不払いに備えて利用する「家賃保証(賃料債権保証)」サービスである。これを養育費に応用したもので、現在、数社の民間業者がサービスを展開しつつある。

利用に際しては、一定の保証料がかかる。

  • 初回保証料(保証契約締結時):養育費1か月分相当であることが多い
  • 更新保証料(2年目以降。1年ごと):養育費の0.12〜0.5か月分相当

また、保証会社が立替払いできる期間(金額)には上限がある。具体的には、12〜36か月分の養育費に制限されているケースが多い。

自治体による支援の内容は、父母が支払った初回保証料を助成するというものである(上限は概ね5万円程度)。なお、大阪市(取組事例集PDF_P39)のように、2年目以降の更新保証料も助成する例外的な自治体も存在するが、現状ではかなり珍しい。


2 最大のメリットは「自分で動かなくていい」こと

養育費保証契約の最大のメリットは、不払いが生じた際に父母が自分で回収のために動かなくてよい点にある。

相手方への督促、それでも解決しない場合の家裁履行勧告、民事執行、民事訴訟といった一連のアクションを、少なくとも立替上限期間(12〜36か月)の間は免れることができる。なぜなら、養育費相当額は保証会社から受け取れるからである。

これだけ聞くと、「ぜひ利用したい」と思う父母も少なくないだろう。

ところが実態は逆で、保証契約の利用は進んでいない。自治体の助成メニューはさらに使われておらず、ごく一部の例外を除けば、年間0〜数件程度というありさまである。


3 なぜ利用が進まないのか

課題は複数の層にわたって積み重なっている。

① わかりづらさ

父母は通常、大家ではない。家賃保証サービスになじみがなく、養育費保証がどういうサービスなのかイメージを持ちにくい。加えて、複数の業者が存在しており、どれを選べばよいか判断できないという問題もある。

② 手続きの複雑さ

養育費の合意を文書化したもの(現状では債務名義形式に制限されているケースが多い)を添付したうえで、自分で保証契約の手続きをする必要がある。プランによっては、「相手方」と保証会社の間での保証委託契約の締結も必要になってくる。

③ 利用タイミングと利用者心理が噛み合っていない

養育費は通常、協議や調停によって決まる。長い話し合いを経てようやく合意に至る過程では、当事者間に「これからお互い新しいスタートを切り、約束を仕切り直そう」という、ある種の信頼関係や前向きな安堵感が醸成されつつある状態にある。

そのタイミングで外部の人間から、「相手方は不払いするかもしれないから、念のため保証契約を」と提案されても、ピンとこない父母は少なくないだろう。むしろ、「せっかくまとまった話に、なぜまた水を差すような不信の種を撒くのか」と感じてしまうことすらある。

実際、保証会社は保証契約締結の事実を相手方に通知するのが通常である。これから新しい形での父母間の関係(面会交流などを含めた緩やかな連携)を築いていこうという局面で、その通知が相手方の感情を逆なでし、関係構築を阻害するリスクも現実的に存在する。

しかし、では「不払いが起きてから考えればよいか」というと、そうもいかない。弁護士法72条との関係から、不払いが発生して「事件化」した後に保証契約を締結して立替払いを受けることはできないとされている。

そうなると、将来の不払いに備えて確実に保証契約を締結しておこうとすると、実質的には養育費の合意後から初回支払前までの間に限られる。養育費は毎月払いが通常であるため、長くても1か月程度の間に、保証契約について理解し、比較検討し、必要書類を準備して契約締結まで終えなければならない。

結局のところ、この制度は「まだ困っていない時」に契約しなければならず、「本当に困った時」には利用できない。制度設計上求められる利用タイミングと、父母の心理や行動のタイミングとが決定的に噛み合っていないのである。

④ 自治体も関与しにくい

ADR利用促進の場合、相談を受ける側がどのADR機関が向いているか一緒に考え、橋渡しをすることができる。しかし養育費保証は純粋に「金融」サービスであり、どの保証会社のどのプランを選ぶかは当該父母個人の判断に委ねるしかない。

つまり、助成メニューを設けるだけでは、自治体が父母に働きかける余地がほとんど生まれないのである。


4 解決のヒントは宮崎市の取り組みにある

2025年4月〜12月の9か月間で、申請22件・契約締結12件――他都市では年間0〜数件程度にとどまることが多い養育費保証契約の保証料助成において、宮崎市(取組事例集PDF_P102)は際立った利用実績を上げている。なぜ、このような差が生じたのだろうか。

宮崎市は、養育費保証会社の一つであるイントラスト社と連携し、助成申請の手続き時に、必要書類を持参したうえで、同時にイントラスト社との保証契約も締結できる仕組みを構築している。

さらに特徴的なのは、初回保証料の支払い方である。通常は父母が保証料を支払い、それを自治体が助成するという構造だが、宮崎市では市がイントラスト社に直接保証料を支払う仕組みになっている。この結果、父母は1回の来庁で、自己負担なく保証会社との契約締結まで一気に完了させることができる。

つまり宮崎市が実現したのは、単なる助成制度ではない。「助成申請」「保証契約」「費用負担」を一つの導線に束ねた、一気通貫型の仕組みである。利用実績の差は、保証契約のニーズの差ではなく、制度の入口設計の差によって生じているようにも見える。


5 さらなる拡大に向けて─「入口」との連携

宮崎市のモデルをベースに、さらに利用を広げるためのヒントがある。より前段階、すなわちさらなる「入口」方向への連携である。

現状、多くの保証会社は、債務名義(公正証書や調停調書など)の形を取った養育費合意がある場合に限って保証契約を認めている(あるいは保証料等が優遇される)。

これは、自治体が行っている「債務名義取得実費助成」との相性が極めて良いことを意味する。

債務名義取得実費助成の手続き時(助成金の交付手続き時)に、保証契約締結支援と保証会社との契約手続きを一体的に行うことができれば、極めて効率的かつ効果的な支援が実現できる。債務名義取得実費助成制度はそれなりに利用され始めてきているから、これをエンジンにして養育費保証契約の保証料助成と一気通貫で動かしていくことができれば、利用件数を大きく押し上げる可能性がある。

課題は「自治体が特定の保証会社と組めるか」という点であろう。これまで述べてきたとおり、養育費保証の場合、民間事業者と正面から組まなければ機能しない。公平性・中立性を重視し、前例を気にしがちな自治体にとって、金融サービスを提供するいち民間事業者と緊密に連携することは、一見すると最大の障壁のようにも見える。

しかし、この点には明確な大義名分がある。宮崎市のように「市が直接業者に保証料を支払う(公金から直接支出する)」という一気通貫の導線を作るためには、特定の事業者とあらかじめ協定を結んでおくことが、支払実務の手続き上、物理的に不可欠だからである。不特定多数の事業者を相手に毎回異なるフローで市が直接支出を行うことは、自治体の財務会計まわりを中心に、著しく事務負担を増大させるため現実的ではない。つまり、「市民の利便性向上」と「自治体自身の事務効率化・コスト削減」を両立させるためには、特定の事業者との連携協定が必須である、という極めて合理的なロジックが成立する。

したがって、公平性の担保については、養育費保証に関する連携プランを公募(プロポーザル等)にかけ、利用者の利便性、手続きの円滑性、支援内容、そして自治体の支払事務の効率性を総合的に比較した上で、最も優れた提案を行った事業者を選定・連携する方法を取ればクリアできる。

結局のところ、これは制度論の壁ではなく、自治体のやる気の問題──養育費保証事業を自分事として捉え、当事者の目線に立って本気で導線を設計し直そうとするかどうか──に帰着するだろう。


6 まとめに代えて─「マス」向けの一気通貫型サービスの可能性

ここまでの連載で、自治体の離婚前後支援のさまざまな側面を論じてきた。論じてきた中で、私の中でひとつの考えが固まりつつある。

多くの離婚する父母が必ず通過する自治体には、弁護士や家庭裁判所といったコアな専門家の介入を必ずしも必要としない案件がたくさんある。そうした「マス」の父母に対して有効なのは、以下の3つの機能を組み合わせた一気通貫型のサービスではないだろうか。

  1. 離婚前後の父母に安心して話し合える場の提供
  2. 話し合った内容を確実に文書化する機能の提供(希望する場合には債務名義取得実費助成も)
  3. 文書化の際に保証契約もセットで提供

個別事件として解決が必要な案件は、家庭裁判所や弁護士に誘導しつつ(これらはとうてい自治体の本業ではない)、自治体はむしろそれ以外の「マス」向けサービスの構築と運営に力を向けることが、現行の法制度を前提とした役割分担・資源配分の面からの最適解ではないかと思いはじめている。

養育費合意から回収までを支えるサービス基盤を、社会インフラとして構築し、社会に根付かせていく。――そういうビジョンで自治体の取り組みを再定義する時期に来ているのではないだろうか。

こうした役割分担の思考実験は、自治体における離婚前後支援事業の再定義・再検証(事業コアの絞り込みや重みづけ)のための材料を提供するものでもある。自治体は養育費確保分野における「便利屋」ではない。期待される役割が際限なく拡大し続けている今こそ、そのことを改めて確認する必要があるように思う。