自治体による離婚前後支援の現在地(4)「取決め事件の弁護士費用」―「取組事例集」を読んで見えてくるもの

2026年06月02日

今回は「弁護士費用の助成」に的を絞って書いてみたい。実施している自治体は驚くほど少ないのだが、その理由をたどっていくと、自治体側の受け止めや、国補助制度の作り、弁護士(会)等とのまじめな連携といった、いくつもの原因となる層が透けて見えてくる、いろいろと考えさせられる論点でもある。


1 実例は、驚くほど少ない

「取組事例集」を眺めて最初に気づくのは、弁護士費用のうち、取決め事件の費用を助成している自治体は、ごくわずかだということである。確認できたのは、神奈川県(着手金15万円)、奈良市・八幡市・金沢市(いずれも着手金10万円、金沢市はさらに報酬金10万円)といったところで、全国の自治体数を思えば、かなり心もとない数である。

なぜこれほど少ないのか。理由は、おそらく2つある。

ひとつは、自治体の側の受け止めの問題だ。「弁護士費用への助成は、はたして自治体の仕事の範囲なのか」という戸惑いが、どこかにあるように感じる。

もうひとつは、後で詳しく見るとおり、国の補助そのものが国要綱の中で「裏メニュー」化してしまっていて、そもそも自治体に十分には届いていない、ということである。


2 要綱を読んでも、すぐには出てこない

国の「離婚前後家庭支援事業実施要綱」は、養育費について「取決め」と「履行確保」を別々の項目として立てている。そして弁護士への依頼費用は、このうち後者の履行確保(=回収・強制執行)に対して助成すると書かれている。

つまり、要綱を素直に読むと、「取決め」段階の弁護士費用が補助対象になるのかが、すぐには読み取れない。これはかなり不親切な作りだと思う。

結論から言えば、取決め事件の着手金は、「その他、養育費の履行確保や親子交流の実施『等』に資する先駆的な取組」という包括条項(実施要綱4(1)ソ)のところで読み込む、という運用になっている。明文で「取決めの費用も対象」と書いてあるわけではなく、包括条項の解釈として拾われているのである。

背景を推測すると、こういうことだろう。もともと取決め事件の着手金は、この「先駆的な取組」の枠の中で読み込む運用が定着していた。そこへ2024年度から、新たに(履行確保事件の)報酬金の助成も始まった。その差分を、実施要綱の中にツギハギしたのが現在の姿と思われる。


3 「わかりにくいルールブック」でいいのか

ここで1つ、率直な感想を書いておきたい。

このような構造だと、自治体の側が積極的に国や先進自治体に情報を取りにいかないかぎり、そもそも国補助があるのか、どこまでが対象なのか、その位置づけはどうなっているのか、が見えてこない。

個人的には、こうしたわかりにくい「ルールブック」は、国と自治体の情報共有のあり方として、いかがなものかと思っている。補助制度として存在していても、現場の担当者に届かなければ、使われないのと同じだからである。 


4 それでも、検討する価値はある

評価に移りたい。

弁護士費用の助成は、父母全般に向けたマクロな支援ではない。だから、自治体の取組としては、どうしてもオプション的な位置づけになる。これはやむを得ないところだろう。

しかし、ここで思い出したいのは、自治体には戸籍部門や手当の申請窓口だけでなく、個別の相談・支援を行う部署がある、ということである。DV等相談、自治体が提供する市民向けの法律相談サービス、父母や子に個別的な支援を行う福祉支援部門――こうした場に来ている相談者にとって、弁護士費用の助成は、弁護士に依頼する大きなきっかけになりうる。

その意味で、個別支援の現場を豊富に持つ自治体であれば、導入を検討してみる価値は十分にあると思う。


5 見落とされがちな「弁護士側の事情」

さて、制度を設けるとき、自治体の関心はどうしても「父母にどう届けるか」に向かいがちである。だが、実際に制度を動かすのは、依頼を受ける弁護士である。そして、その弁護士の側がこの種の助成を必ずしも諸手を挙げて歓迎するわけではない、という事情は、これまであまり語られてこなかったように思う。

理由はいくつかある。

第一に、案内し損ねたときの責任問題である。仮に、利用できる助成の存在を伝えないまま受任した場合、後になって依頼者から「どうして教えてくれなかったのか」と問われかねない。助成が世に知られるようになればなるほど、「弁護士なら知っていて当然」という期待が生まれ、案内漏れがクレームや信頼関係の毀損につながりうる。少なくとも、弁護士がそうしたリスクを気にするのは、もっともなことだと思う。

第二に、使うための段取りが弁護士の負担になる点である。助成は、たとえば奈良市や金沢市では、弁護士との委任契約の前に、自治体への事前申請を行うことを条件としている。つまり「相談 → 申請 → 受任」という順序を踏まないと使えず、先に受任してしまった後では間に合わない。具体的には、相談に来た依頼者に対して、いったん契約を結ぶのを保留し、「まず市役所の窓口に行って助成の相談と申請をしてきてください」と案内することになる。依頼者にとってはありがたい制度でも、弁護士の側から見れば、受任の入口で制度を把握し、いま契約に踏み出そうとしている依頼者を一度自治体の窓口へ送り出すという手間が生じる。受け取る報酬の総額が増えるわけでもない中で、この手間をどう受け止めるかは、人によって温度差があるだろう。

こうして並べてみると、弁護士の「歓迎しなさ」は、けっして非協力的だからではない。むしろ依頼者に対して誠実であろうとするからこそ生じる懸念である、ということになる。 


6 だからこそ、弁護士会・法テラスとの協力が要る

ここまでの裏返しとして言えるのが、自治体が助成制度を設けるなら、弁護士会や法テラスとの協力が不可欠だ、ということである。

担当する弁護士がこの制度を知っていれば、法律相談の場で弁護士自身が制度を案内できる。これは利用促進に直結するうえ、先に挙げた「案内し損ね」のリスクそのものを下げる。制度の存在が現場の弁護士に行き渡っていること自体が、結局は依頼者の保護にもなるのである。

逆に言えば、自治体の広報誌やホームページに「助成制度を作りました」と載せるだけでは足りない。それを現場の弁護士に届け、一緒に育てていく姿勢がいる。自治体は導入にあたって、弁護士会等に対し、丁寧な説明と協力の要請を行うことが求められる。 


7 もうひとつの落とし穴 ―「便乗値上げ」

ここまでは、主に弁護士の側の事情を見てきた。最後に、助成という仕組みそのものが孕むリスクを一つ挙げておきたい。弁護士の立場からはやや書きにくいことだが、助成は弁護士費用の「便乗値上げ」を招きかねない、という点である。

たとえば未成年の子のいる離婚事件の着手金の相場が40万円だったとする。そこに、自治体が10万円までの助成を始めた。素直に運用されれば、依頼者の実負担は40万円から30万円に下がるはずである。

ところが、ここで「10万円は助成で出るのだから」と着手金を50万円に引き上げる――そうした便乗値上げの誘因が、論理的には働きうる。依頼者の実負担は40万円のまま変わらず、上乗せ分の10万円が弁護士の手元に入る、という構図である。これでは、せっかくの公費が、依頼者負担の軽減ではなく、弁護士費用そのものの押し上げに回ってしまう。助成本来の趣旨が損なわれることになる。

そして悩ましいのは、この便乗値上げを制度の側で防ぐ実効的な手立ては、おそらくない、ということである。受任前に費用の妥当性を自治体が逐一審査するのは現実的でないし、相場そのものに幅がある以上、いくらが「便乗」でいくらが正当な値付けかを線引きするのも難しい。結局のところ、この問題は弁護士一人ひとりの良心に委ねるよりほかない。助成制度には、そうした性質の弱さが、構造的にビルトインされているのである。


8  弁護士としても ―債務名義取得の実費助成に目を向けたい

さらに、自戒も込めて、同業者としての実務目線で1点だけ触れておきたい。

弁護士費用そのものへの助成を行っている自治体はごくわずかだが、視野を少し広げると、公正証書の作成手数料や、調停・訴訟の申立費用といった「債務名義取得にかかる実費」を助成する制度は、すでに多くの自治体で実施されている。事件によっては、こちらが利用できることは決して珍しくない。

これは弁護士費用そのものの助成と違って、すでに広く行き渡っている。受任にあたって依頼者の地元自治体の制度を確認し、依頼者に案内する――そこは、私たち弁護士としても、日々の事件処理の中で目を配っておきたいところだと思う。

そして、こうした目配りの習慣は、いま自分の足元から始められることであると同時に、将来、弁護士費用そのものの助成がもっと広がっていったときにも、必ず活きてくる。地元の制度を確認するという所作が一度身につけば、対象が実費であれ弁護士費用であれ、同じ動きの中で自然に拾えるようになるからである。

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弁護士費用の助成は、かなりインパクトのあるメニューであり、司法の手前で立ちすくんでいる父母の背中を、確かに押してくれる。制度の運用や定着までの難しさを乗り越えて、もっと多くの自治体が検討の俎上に載せてくれることを期待したい。