自治体による離婚前後支援の現在地(1)「全般」―「取組事例集」を読んで見えてくるもの

金沢市の養育費確保支援に関する連載を書いたが、これに引き続き、自治体による父母への支援の在り方について、数回に分けて私見を書いていきたい。
素材として取り上げるのは、こども家庭庁支援局家庭福祉課が令和8年4月に公表した「離婚前後家庭支援事業取組事例集」である。これは、国の補助金を活用して各自治体が実施している取組を紹介する資料だ。
具体的な支援メニューには、弁護士・相談員による相談支援、親支援講座、養育費の取決め(入口)に係る費用補助、履行確保(出口:保証・強制執行)に係る費用補助、そして親子交流支援などが並ぶ。各自治体はこれらのメニューを任意で実施し、毎年年始に国へ実施状況を報告し、その内容が春に公表されるという流れである。
1 149頁の資料だが、実際には「見どころ」は多くない
この資料は149頁という大部なものであるが、実際に読み進めていくと、それほど見るべき箇所が多いわけではない。
理由は単純である。多くの自治体が似通ったメニューを提供していることに加え、制度を整えても、全般として利用実績があまり伸びていない(利用に繋がっていない)ためである。
例外的に一定の利用が見られるのは、「法律相談事業」と「債務名義取得実費助成」あたりであり、年間数十件規模の実績を持つ自治体も徐々に増えてはいる。一方、ADR利用料助成や養育費保証料助成については、制度を設ける自治体自体は増えているものの、実際の利用は0件から数件程度にとどまる例が目立つ。また、弁護士費用助成に至っては、そもそも制度化している自治体自体がまだまだごく少数にとどまるという状況だ。
全般として、制度を設計することと、それが実際に市民に利用されることの間には、依然として大きな隔たりがあると言わざるを得ない。
2 船橋市の「平日夜間・休日弁護士相談」にみる理想形
そのような中で、まず、個人的に目を引かれたのが、船橋市(人口約65万人)の取組(上記事例集PDF_P52~)である。
同市は、この取組を意欲的におこなっており、法律相談事業として平日夜間や土日に弁護士相談枠を設けている。平均月5件程度の相談実績があるという。
特筆すべきは、母子・父子自立支援員が事前に相談者から聴き取りを行い、これをアセスメントシートとしてまとめた上で、それをもとに弁護士が相談対応を行う体制を執っている点である。
役割分担が明確であり、法律相談が必要な案件とそうでない案件の振り分けもうまく機能しそうなやり方である。
金沢市のように、養育費確保のために常勤的な弁護士が常に在籍する自治体は、全国的には極めて稀である。個人的には、これは特殊な体制であり、必ずしも全国が真似すべきものとも思わない。むしろ、弁護士以外の職員や支援者がいったん相談を受け、その上で弁護士に繋ぐという船橋市の形が、自治体における弁護士連携の一つの理想形に近いように思われる。
また、夜間や休日に相談枠を設けている点も高く評価できる。平日日中であれば、法テラスや弁護士会の相談窓口を利用することは比較的容易である。自治体としては、既存の枠組みでは拾いきれないニーズを拾いに行くべきであろう。
さらに言えば、平日の相談を即時に弁護士へ繋ぐ仕組みとして、弁護士がZoom等でオンライン待機する方法や、少なくともその場で予約を完結できる体制の整備も考えられる。これには有志の弁護士や弁護士会、法テラス等との連携が不可欠だ。
一点気になるのは、当日相談ではなく事前(平日)のアセスメントを必須としている場合、本来拾うべき層をこぼしてしまう可能性はないか、という点である。このあたりの運用の塩梅は議論の余地があろう。
3 郡山市の「公証役場ルート」は非常に効果的である
もう一つ、個人的に親近感を覚えたのが、郡山市(人口約31万人)の取組(上記事例集PDF_P42~)である。
同市では、郡山公証役場と連携し、公正証書を作成しに来た市民に対して、養育費確保支援事業のチラシを窓口で配布しているという。
これは非常に効果的な取組だ。実は当市でも、金沢公証役場への周知がうまく機能していることが、債務名義取得実費助成の申請件数増に直結しているという実情がある。
公証役場ルートでの周知は、対象者に対して最も効率よく助成に係る情報を届けることができる。
4 もっとも、「できる人」だけを支援していないか
もっとも、この「公証役場ルート」に依存しすぎることには、一定の危うさもある。
結局のところ、このルートで助成を受けるのは「自分で公証役場に行けた人」、「自力で動けた人」に過ぎないからだ。したがって、助成件数が増えたとしても、それが直ちに「公正証書による取決め率の向上」という政策目標の達成を意味するわけではない。
5 「債務名義取得支援」を深掘りしすぎる危うさ
さらに、前回触れたように、令和6年民法等改正によって、公正証書(債務名義)の「絶対性」は、以前ほど強いものではなくなっている。個別案件レベルで作成を促すことには依然として意義があるものの、自治体施策という俯瞰した視点に立てば、より本質的な論点が見えてくるはずだ。
それは、「離婚前後の父母が、少なくとも、養育費と親子交流に関する不備のない合意文書を、いかに効率的かつ確実に作成できるインフラを整えるか」という点に他ならない。全ての離婚届を受理し、あらゆる離婚案件と接点を持ち得る自治体だからこそ、こうした包括的な仕組みづくりに関与できる余地は大きく、また負うべき責任も重いと言える。
自治体が、数字としての実績を上げやすい「債務名義取得の実費助成」だけをこのまま深掘りし続けても、政策としてはやや頓珍漢な方向に向かいかねない。法制度が劇的にアップデートされた今、従来型の支援策を漫然と継続するのではなく、変化を前提とした「真に機能する支援制度」を問い直し、再構築していくことが、国や自治体に求められている。
