金沢市「養サポ」事業 立案担当者のつぶやき⑬【ADRへの橋渡しの仕方(3) ―料金体系に注意!―】

2026年03月31日

やや細かい話になるが、最後に「自治体の助成」と「ADR機関の料金体系」の相性について触れておきたい。

1 ADRの料金体系は実はバラバラ

ADRの利用料は、機関ごとに大きく異なる。

まず、伝統的な民間ADRである弁護士会ADRでは、一般的に次のような構成がとられている。

「①申立手数料 + ②期日手数料(話合いの回数ごとに発生)+ ③成立手数料」

①と②は定額であるので、これらに限ればある程度の見通しを持てる。

問題は③の成立手数料である。


2 「経済的利益」というブラックボックス

成立手数料は、弁護士会ADRでは、通常「経済的利益」に一定の料率をかけて算出される。

しかし、家事事件においては、この「経済的利益」が非常に分かりにくい。

例えば――

・離婚そのものの利益はいくらか

・親子交流が実現することの利益はいくらか

といったことについては、いずれも金額で明確に評価できるものではない。

さらに、家事事件では、実際に話合いを始めてみないと、

・親権

・監護

・養育費

・親子交流

・財産分与

・慰謝料

・年金分割

など、どこまでが争点となり、最終的にどの範囲で合意に至るかも見通せない。

結果として、最終的な「経済的利益」も確定しにくく、成立手数料は、実質的にADR機関側の判断に委ねられる部分が大きくなる。

当事者から見れば、最終的にいくらかかるのか分からないという点で、いわば「値札のないすし屋に入る」ような不安がある。


3 自治体助成との相性の問題

このような料金体系の場合、自治体が数万円〜十万円の助成を行ったとしても、「総額の見通しが立たない」という問題は解消されない。そのため、現状では自治体として、弁護士会ADRを積極的に勧めることには慎重にならざるを得ない。


4 定額型のADRという選択肢

一方で、弁護士会ADR以外の民間ADR機関では、基本的に、「経済的利益」という概念を用いない料金体系を採用している。

仮に、弁護士会ADRと同様の料金構成であったとしても、

「①申立手数料 + ②期日手数料(回数ごと) + ③合意文書作成料(定額)

といった形で、全体を足し算と掛け算で計算できるようになっている。

この場合、利用者は「最大でどれくらいかかるか」の見通しを立てやすい。その結果、「自治体助成を使えば自己負担はいくらか」、「その金額に見合う手続か」といった判断がしやすくなる。


5 費用負担のルールも重要なポイント

もう一つ見落としがちだが重要なのが、費用を誰が負担するかという点である。

多くのADR機関では、当事者間の合意で負担割合を決めることができる(折半、申立人負担、相手方負担など柔軟に設定可能)。

ただし、ADRでの話合いは、次のような構図になりやすい。

・申立人:解決への意欲が高い

・相手方:促されてしぶしぶ参加している

期日を重ねても、この「温度差」が維持され、和解に持ち込まれた場合、相手方が費用負担に消極的になるケースは少なくない。

そのような場合、「申立人が全額負担することを受け容れ、申立人において自治体から助成を受ける」という運用が、現実的な解決策の一つとなり得る。


6 「折半固定型」の難しさと対応策

他方で、「費用は必ず折半」とするADR機関もある。

この場合は、

・申立人による一括負担という柔軟な対応ができない

・相手方が費用負担を嫌って手続参加自体をためらう

といった問題が生じうる。

そのため、こうしたADR機関の利用に繋げることも視野に入れて、自治体として後押しするのであれば、父母双方への助成など、制度設計上の工夫が求められる。


まとめ

ADRの利用を後押しするには、各ADR機関の料金体系を踏まえて、助成制度を設計・運用することが不可欠である。

料金の仕組みが異なれば、

・利用者の費用の見通し

・実際に利用に踏み切れるか

が大きく変わる。

したがって、自治体としては、制度を作るだけでなく、料金体系の違いを前提に、市民への案内や法律相談の中で具体的に説明していくことが重要になる。